図書室の先生

話すことと書くことが乖離しているように第一印象を裏切る子が居る。私はこの学校で燐灰石と呼ばれていた。今は図書室の先生と呼ばれている。入学式で生徒達はそれぞれ宝石の名を与えられて祝福される。祝福だろうか。私はそれを美しい呪いと云った子を覚えている。彼女は紅柱石と呼ばれていた。宝石言葉を幾つも教えてくれた。どうしたら退学できるのか何時も思案していた。

私は先ず図書室に一つの箱を置いた。匿名でも記名でも構わないから手紙を書きたかったら書きなさいと生徒達に伝えた。返事が欲しかったら名前を書いてもらえると助かるけれどと云い添えながら生徒達が名前を書くとしたら校長に与えられたものか戸籍に記されたものか考えてまた紅柱石のことを思い出した。殆どの生徒達は退屈そうで安心した。

手紙は多い月も少ない月も有った。時に私は保健室の先生に相談に乗ってもらいながら返事を書いた。本業は忙しくないのと尋ねられて図書委員が居るからと答えた。この人も此処の卒業生だと聞いている。名前は知らない。便箋と封筒を慎重に選んでそれより真剣に言葉を選ぶ。言霊という語を紅柱石は使った。どうして彼女のことばかり思い出してしまうのか。私は活字のような字を書き続ける。彼女は鉛筆の持ち方が悪くて疲れるからと板書を写すことを嫌った。遺書などは当然に書かなかった。

手紙に添えられた名前を見てあの子がねと思う時が有る。結局は私も宝石の名前を重んじている。それを内面どころか本質のように考えている。校長が選んだものだから。でもどのように。宝石でなくなった私にはもう生徒達のことを本当には分からない。でも宝石だった私は生徒達の知らないことを知っている。

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