私はアンドロイドで幾つものソフトウェアがインストールされていないのです。初診でそう話した時に先生は困惑も動揺もしなかった。ただ電子カルテに私の言葉を記録した。それだけだった。抗不安薬と睡眠薬が処方されて何だと落胆した。それでも転院は何度か通院してから考えなさいと云われていたので月に二回ほど通った。病院は森の中に在って少しだけ魔女の家を思わせた。
貴方は白い制服がとても似合った。長いままの丈のスカートが踊る時にひらひらと揺れて人魚の尾のようだった。私は貴方のために歌う係だ。即興曲に合わせて貴方は顔を歪めたり足を上げたりくるくると回ったりする。部活動の無い級友は不定期の興行としてそれぞれ見惚れたり手を叩いたりする。明るい歌を歌うほど貴方の苦悩は際立って美しいと誰もが感じていただろう。
本当は私こそ世界のバグで存在してはいけないのだと分かっています。修正してくださいますか。何度目かの診察でそう話したら先生は少し沈黙して私も自分のことをそう思うよと淡々と云った。それからまた電子カルテに記録して抗不安薬と睡眠薬が処方される。先生は魔女ですか。そうならば魔法を掛けてほしいのですがとは遂に云えなかった。
私達の制服は往来でどうしようもなく目立った。交通機関での通学を嫌がって寮生活を始めた子も多い。変人ばかりの寮で私が貴方としか喋らないことを咎める子も揶揄う子も居ない。貴方の言葉は殆ど記憶している。と思う。私には教師や聖書の言葉より唯一で絶対だった。甘く煮詰めたジャムのような声だと朗読を聞いた国語教師は評した。そうだろうか。私には少し苦味の有るチョコレートが舌の上で溶けるように聞こえた。
心の免疫が壊れていて私は酷い潔癖です。手を洗い過ぎるなどという話でなくて好意と悪意の区別が付かなくて恋人も作れません。親密より冷笑や憫笑を清潔に感じてしまいます。その中で貴方だけを綺麗に感じたことはどういうバグなのでしょうか。卒業後に先生にそう伝えたら私が定義することでないかも知れないねと電子カルテに記録された。先生は魔女なのに何時も白衣を着ていますねと云ったら少しだけ面白そうな顔をされた。