隣の魔女

子供の頃に隣の部屋に住んでいたお姉さんは何時も黒い服を着ていた。お姉さんは魔女ですかと尋ねると小さいのに敬語が使えて偉いねえと飴を呉れた。包装を開いて口の中に入れる時は酷くどきどきした。魔女の飴だ。頭と体が少しふわふわしたことを覚えているけれど洋酒でも入っていたのだろうか。鍵っ子だった私は殆ど毎日のように隣家のインターフォンを押すようになった。口実は色々だ。お腹が空いて。幽霊が居て。宿題がどうしても解けなくて。お姉さんはあらあらと微笑んで片付いた部屋に入れてくれる。冷たい紅茶や温かい牛乳を出してくれる。スーパーで見掛けない外国の菓子を食べさせてくれる。お姉さんは私の髪を水で濡らしてブラシで梳かしてくれた。お呪いと囁いて香水を付けてくれた。ぼろぼろの唇にリップクリームを塗ってくれた。お姉さんは魔女ですかと尋ねると嬉しそうに笑ってシンデレラになりたいのと訊いてくる。いいえ。私はお姉さんのようになりたいのです。そう答えようとすると必ず布団で目覚める。お姉さんは私が中学に上がる頃に居なくなってしまった。今でも黒いワンピースを着る時に特別な気持になるけれど記憶だけが痕跡なので誰にも話せない。

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