私達はもう大人だから

貴方の仕事は深夜の二時に私のインターフォンを鳴らすこと。正確に云えばコンビニのアイスをバイクで届けてくれること。個人の趣味だから融通が効くんだと貴方は平然と云うけれどどういうことか分からない。ポストに投函されたチラシには深夜零時から四時まで食品や生活用品を配達しますと書かれていた。女性のみとも。幾つかの手続きを済ませて私は睡眠薬の効かない夜に電話してみた。田中とか佐藤とか名乗った小母さんがはいはいと直ぐに対応してくれて貴方は雨の夜にレインコートを纏って来てくれた。感動した。私なんかのためにびしょびしょになりながらバニラアイスを届けてくれる人が居るのか。ハグしたいくらいだったけれど貴方はまたねと帰っていった。その時はふわふわの髪が背中まで有ることも知らなかった。私の仕事は家から出られない子と電話でお話しすること。やはり趣味のようなものだ。話題に上がった本や音楽はどれも目や耳にしてこれがこの子の世界なのだと深海に沈んだ。優しくて繊細なものも有れば悲しくて乱暴なものも有る。傷付いている少女と話すことは私の中の少女を慰めることだった。深夜二時十五分。遅れましたと貴方がインターフォンを鳴らす。私は子犬のように尻尾を振りながら猫のように澄まして扉を開ける。こんばんはと柔らかそうな髪をした貴方が優しい声で夜を攪拌する。

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