電車で制服の少女を助けた。本当ならば男を追い掛けて罵りたかったけれど小さな手にブラウスの袖を摑まれて困って喫茶店に行かないなんて云ってしまった。ゼミの無い日で良かったと思う。少女の学校に電話するために名前を訊けば少し落ち着いた声でフルネームを答えられる。ああと思う。似ていると思ったのだ。私を見る目の明晰さがこんな時でも。誘ってしまった以上は珈琲なり紅茶なり奢らなくてはいけない。それでも少女は殊勝に私がお姉さんの分も払いますとメロンソーダを二つ頼んだ。それが存外に可笑しくてやはり似ていないかも知れないと思う。それとも娘は可愛がる人だったのだろうか。丁寧に編まれた髪が大事にされている証拠のようで少し淋しい。お姉さんは何の勉強をしていますかと気を遣ってか私のことを訊いてくれるので本を読んでいるだけよと正直に答える。何のと尋ねる目が確かに似ている。本や絵画の話をする時は別人のように明るかった。信仰の話と静かに答えて少女の学校に話を逸らす。窓からの陽光が眩しくて少女が物語の中の人にも思えて目を瞑る。